機内食のそばがNG?ふかわりょうさんに聞く、旅の魅力と「理想の空港」
更新日:2023年4月20日
今や現代人の必需品のひとつとなっているスマートフォン。電話やメッセージのやりとりだけではなく、スケジュール管理や情報収集、ゲームなどの娯楽のほか、電子マネーなど財布としての機能も備え、「スマホを手放すことなんてできない!」と感じている人も多いのではないでしょうか。
そんなスマホを家に置き、3泊4日の旅に出たというふかわりょうさん。大和書房から4月15日に発売された「スマホを置いて旅したら」は、そんなスマホ無しの旅の様子を綴った紀行文となっています。なぜふかわさんは、スマホを置いて旅に出ようと思ったのでしょうか。そして、”理想の空港”トークから、ふかわさんの旅行観にも迫っていきたいと思います。
「スマホを置いて旅したら」出版記念インタビュー
スマホを置いて、見えてきたもの
――「スマホを置いて旅したら」というタイトルは、スマホ必携の現代社会においてとても魅力的に聞こえます。どんな経緯でスマホを置いた旅をやることになったのでしょうか。
まず本になったのはあくまで結果論で、数年前からスマホを置いた旅というのをやってみたいなと思っていたんです。携帯電話がいつの間にかスマートフォンになり、だんだんと画面を見つめる時間が増えてきた中で、ふと家の近所で電線の上を伝って歩くハクビシンを見かけたんですよ。その時に、僕は「電線の上のハクビシンを見ていたい」と思ったんです。文明やテクノロジーの進化は素晴らしいけれど、下を向いて画面だけを見過ぎてしまうと、スマートフォンだけで世界を構築してしまう。それだけじゃなく、自分の目や感触でも世界を構築したいという想いがずっとあったんです。
――以前、ラジオで「アンテナ圏外カフェがあったらいいんじゃないか?」と、話してていましたね。
とはいえ、スマートフォンを悪にしたいわけじゃないんです。使う側の問題ですよね。僕としてはやっぱり、依存するのが怖いというか。スマホ越しに世界を構築することって、まるで自分の体から離れて、自分自身が画面の中に入ってしまっているような感覚だったんですよ。まさしく自分がアプリになってしまったかのようなイメージになってしまっていたので、スマホ越しじゃなく、自分の目で世界と触れ合いたいと思ったし、その隙間から何が見えるのかっていう冒険っぽいところはありましたね。
――数年前からの想いがあって、実際に旅に出るという最後の一押しとなったきっかけは何かあったのでしょうか。
本の中にも書きましたが、やたらと「ほうれい線の広告」が出てきたことですね。それに気付いたことが、思い返すと最後の一押しだったかも。
――教えたつもりはないのに、自分の情報が画面の向こうに見抜かれてしまっているような感覚になられたんですよね。
実際のところは分からないですけどね。少なくとも自分にはそう感じられたんです。あと、体験としては昔アイスランドに行ったときに、当時は携帯電話だったんですけど、それが繋がらなくなってしまって。最初は不安だったんですけど、徐々に解放感で心や体がふわっと浮かぶような感覚になったんです。自転車にはじめて乗った時のような感覚が忘れられなかったんですよね。その経験があって、ほうれい線の広告が一押しになって、スマホを置いた旅に出たくなったのかもしれません。
――スマホがあることで得られたものはたくさんありますが、逆に失われたものはどのようなことだと思いますか?
これもラジオ等でたくさん話してきましたけど、ぼーっとする時間ですよね。それは携帯電話の時から、削がれてしまった時間だと感じています。スマートフォンになってからは、コミュニケーション以外の用途もできるから、今まではぼーっとしていた時間も、スマホに目を向けられるようになりました。それで心の平穏が保てるタイプの人はいいんですけど、僕はそこから入ってくる情報で精神がグラついたりもするので、そういう意味での平穏が奪われてしまっているような感覚はあります。
それにスマートフォンで検索すると、すぐに答えにアクセスできるんですよ。それもひとつの果実ではあるんですが、その答えにアクセスするまでに、自分でいろいろと思いを巡らせたり、試案したりする時間もまた、僕は果実だと思っていて、その果実も味わいたいだけ。「どっちの果実がおいしいか?」じゃなくて、どちらも味わいたいという好みの問題なんですよね。僕はそこに小さな豊かさが潜んでいるような気がして、物質的な豊かさと経験としての豊かさは、そういうところで結びつくんじゃないかと、なんとなく予感のようなものがそこにある気がしています。
――スマホを置いて試行錯誤を巡らす時間も、味わい深い果実ということですね。かつてはその方が主流だったわけですし。
旅の中では、使い捨てカメラとかのノスタルジーを感じさせるようなものをスパイスとして取り入れましたが、僕はあくまで未来を見据えた上で、3泊4日の旅をしていたんです。手元にスマホがあると、そこで自己完結できてしまうんですよね。それがスマホを置いたことで、外と向き合うようになる。人だったり、場所だったり、目に映るもの、自分を取り巻く世界とダイレクトにつながります。状況によってはリスクを伴うかもしれないですけど、それも世の中の感触ですよね。肌触りや手応えをすごく感じることができました。
スマホには情報がたくさん詰まっています。でも情報として言語化や数値化できないものの方が世の中には多いと思うんですよ。スマホが介在しないことで、そこをより味わえるようなところはあったと思います。お店に入る前に、グルメサイトを見て入るのが当たり前になっちゃっている中で「そこからちょっと解放されたいな」と、いう感じですね。
もちろん、スマホを持っていても素敵なものとの出会いはあると思います。でも、それとは別の彩りがあるんですよ。出会うまでの最短距離ということも果実ですけど、道草をしたり寄り道をしたりしてから出会うことも、やはり果実だと僕は思うんですよね。そこに、未来の豊かさが潜んでいるように思えるんです。
――本を書いている時、旅を振り返って思い出に浸るような時間もあったかと思いますがいかがでしょうか?
旅をしているときに書籍化が決まっていたわけではなかったんですが、旅を終えたときに「こういう表現ができそうだな」というイメージは持っていました。なんとなく頭の中で文章になっていくようなところはもともとあったんですが、紀行文として書き始めると、旅の感覚がまだ鮮明に残っている時だったので、追体験かのような感じで楽しかったですね。かつて、アイスランドとかポルトガルとか海外に行くと必ずだらだらと綴っていたんですが、毎回そこはすごく楽しい時間になっています。
――スマホを置いた旅、またやってみたいと思いますか? 国内だけでなく海外でやってみるとか。
そうですね。でも、もともと携帯電話がない時代でも、道に迷っては人に聞いて、送ってもらうということが割とあったので、意外とできるんじゃないかな? 海外でスマホを置いた旅がどういう意味を持つかは、ちょっとまだ分からないからないですけど、旅という視点でいうといろんな景色を見たいなとは思っています。
そういう意味では、今回旅した美濃地方というのは、スマホを持たない旅とは相性が良かったと思うんですよ。水琴窟が今回の旅におけるひとつのテーマだったんですけど、水琴窟の音って五線譜とは関係なく奏でられるものなんです。僕の中で”スマホ社会”と、この”五線譜”に重なるところがあって美濃への旅を選びました。
でもどんな場所でも、スマホを持っているか持っていないかで、出会うものは変わってくると思いますよ。いつも車で通る道なのに、歩いてみたら、車では気付けなかったものに出会うことって必ずあると思います。それと同じで、スマホってものすごく情報スピードが早い乗り物なので、それを置くだけで入ってくる情報は違ってくると思いますし、これからはそういう生活も暮らしの在り方として存在感が出てくるんじゃないかと思っていますね。
――本を手に取ってくださった方に、どんなふうに読んでもらいたいですか?
スマホとの距離感をどこか迷いながら生活されている方って、必ずいらっしゃるはず。そういう方が実際にスマホを置いて旅に出る前に、この本で一緒に旅をして想像してもらえるといいなと思っています。そして本の中で、分からないものがあったとき――例えば水琴窟ってどんなもの?って思ったとき、できればスマホですぐに検索したりせず、いろいろ考えを巡らせながら読んでみてほしいです。その”分からない時間”に、きっと豊かさの種があるんじゃないかと思います。
ふかわさんの考える”理想の空港”とは?
――旅行に行くとき、個人的には準備の面倒臭さも感じてしまうんですけど、ふかわさんはいかがですか?
旅行の準備も、煩わしいと思いながらも嫌いじゃないんですよ。旅行に行くまでのワクワク感って本当に大好きで、準備の手続きとかめんどくさいものも全部込みで好きだったりするんですよね。飛行機だと空港のゲートを通る時とか、荷物を検査するとかいろいろありますけど、そこもワクワクしています。
――以前、ラジオで「手ぶらでハワイに行けるさまぁ~ずさんに憧れている」なんてお話していましたが、旅の荷物は身軽になられましたか?
いや〜、今でも荷物は割といっぱい持って行ってしまうタイプです。詰め込んじゃいますね。「僕のパートナーになる人は、手ぶらでハワイに行けるような人がいい」みたいな話もラジオで話した気がしますね。僕が荷物をパンパンにしてしまうから(笑)。荷物を増やしていること自体がもう楽しいんですよね。「何が起きても大丈夫、俺は無敵だ!」みたいな感覚。結果、使わずに帰ってくることも全然あるんですけどね。下着やシャツも、これはヨレヨレだから最後に旅で着て捨てて帰ろうと思っていても、捨てずに帰ってしまったり。そんな自分も嫌いじゃないです。
――本では新幹線の旅でしたが、空港という場所はお好きですか?
空港はすごく好きな場所ですね。もともとサービスエリアとかそういう空間が好きで、結構くまなく見て歩きます。特にカレー屋さんが好きで、到着ゲートを出るとなぜかいつもカレーが食べたくなっている気がします。帰りは荷物が多いので、お店の隅の荷物置き場に置かせてもらって、それを気にしながらカレーを食べるっていうのは、何気に空港ルーティンかもしれません。
アクシデントで出発や到着が遅れたりするのも、1人なら楽しいんですよ。グループだと、1人が荷物を見ている本部みたいなのを作って、各々が好きなお店に向かって自由に買い物をして…っていう感じとかが最高ですよね。
――お互いに買ってきたものを見せて「そんなのあった?」みたいな会話、楽しいですよね。逆に「空港によくあるけど、なくても良くない?」みたいなものってありますか?
サービスエリアだと、割と街中で見かけるようなチェーン店やフランチャイズのお店とかとは別の世界観があってほしいと思うんですけど、空港だとなんか許容できるんですよね。空港に住みたいくらいなので(笑)、むしろあってほしい。
――空港の良さってどういうところでしょうか?
なんだろうな? バイブスがいいんですよ、空港は。みんな旅しているところだから、いいバイブスを持ち寄っているんですよね。あと、アナウンスもいい。サウンドとして最高です。空港ならではの音じゃないですか? 僕、小学校のプールの音も好きで、プールで「ワーッ」とやっている集合体みたいな音、大好きなんです。変質者だと思われないのであれば、プールの外の壁でずっと聴いていたいくらい。1人1人は何かしら言ってるんだろうけど、それが集まると独特の”プールの音”になるんです。
空港もそういう集合体としていい雑踏音があって、そこに空港の独特のアナウンスがあって……。あのアナウンスはサービスエリアや道の駅にはないので、インフラとしての強みですよね、そこは。鉄道でも”音鉄”とかいらっしゃるじゃないですか。僕もそういう音寄りの好みがある気がしますね。
逆に苦手な音は、飛行機の中の音なんですけど、着陸してシートベルト着用のランプが消えた時。みんなが一斉に荷物を取り出すじゃないですか。それこそ、いいバイブスが流れていないんですよ(笑)。焦りとかがあるのか、あの音は苦手です。
――何かあのタイミングで「われ先に!」という感じがしますよね。映画館で観終わったあとみたいな。同調圧力というか……
もっとバラバラでもいいのに、一斉に動いている感じが苦手なのかもしれないですね。
――さて、今回は美濃地方に近い空港ということで中部国際空港の白地図を用意しました。
▲編集部で用意した白地図
――今までのお話を踏まえて、ふかわさんの理想の空港を作っていただきたいと思います。何か欲しいテナントとか、置いてほしい施設などはありますか?
そうですね……。怒られるかもしれないけど、DJブースを置きたいんですよ。空港DJは1回やってみたいんです。羽田空港とかだと、ライブハウスが近くにくっついていたりするようなことはありますよね。飛行機の中だと、機内オーディオとかもあると思うんですけどね。落語チャンネルとかあったよね? 今、もうないのかな?
――独自コンテンツから、サブスクに切り変えた航空会社もあるみたいですね。中部国際空港ならではのものだといかがでしょうか?
“けいちゃん”はあった方がいいよね。今でも食べられるところあるのかな? あと、美濃和紙に触れられるようなところも欲しい。
――現在はレストランだと「味仙」「カレーハウスCoCo壱番屋」「世界の山ちゃん」なんかがあるみたいですね。
そういうお店はあった方がいい! 空港に合うものってあるから。僕みたいにカレー食べたくなる人もいるはず。あとは、空港には本屋があってほしいんですよ。フライト中に読めるように。フライト中の映画も、ちょっと特別な感じがしていいんですけど、途中でCAさんのアナウンスが入ったりして、止まることがあるんですよね。でも、本だとそこも邪魔されない。
――空港で出合って、そのまま旅に連れていく本っていうのも、何かいいですね。
なんなら図書館! もとのところに戻さなくても良くて、常に巡回しているというか。旅館とかでも、誰のチョイスか分からないような本が並んでいる空間ってあったりしますよね。そういう感じで、特に豊富に置いてあるとかじゃなく、誰が手に取ってもいいし、読み終わったらどこかの空港に戻す。その本が今どこにあるのかよく分からないような、空港の本棚ってあったら楽しいかもしれないですね。
――海外のゲストハウスとかで、巻末に「俺がこの本をここに置きました」みたいなメッセージが書かれている本が置いてあったりしますね。渡航先が国内か海外かでも、欲しくなるテナントって変わりそうですか?
やっぱり気分が違うもんね。あとさ、海外から帰ってくる飛行機の機内食で、気を利かせてなのか、ちょっとおそばを入れてくれていたりするじゃないですか。実は僕、あんまりあれが嬉しくないんです。もし、そばを食べるなら、もっとちゃんとしたのを食べたいから。
――「こういうの好きなんでしょ? 分かってますよ〜」という意図を薄く感じますね。
そうそうそう! このそば欲を”ちょっとしたおそば”で済ませたくないんです。そういう意味では、空港に立ち食いそばはあってもいいかもしれないですね。保安検査場を通ったあとに「もうここでそばを食べとかないとしばらく食べられない」みたいな場所にあったら嬉しいかも。中部国際空港だからきしめんスタンドかな?
――駆け込みそば的な立ち食いのものが保安検査の後にあるとホッとできるかもしれないです。
駅の立ち食いそばとか、最高じゃないですか。あと、これは成田空港の話なんですけど、帰り道で酒々井サービスエリアに寄ってさつま揚げを食べるんですよ。そうすると「日本に帰ってきたなぁ……」って気持ちになりますね。そういう意味ではやっぱり、食べ物の影響って大きいです。
――空港に置くとしたら、どんな飲食のテナントでしょう?
空港に行ったときに、実際に寄るかどうかは別として、そこにあってくれたらテンションが上がるのは牛たんのねぎしでしょうか、自分が好きなだけですけど(笑)。あとは上島珈琲店も入っていると彩りとしてうれしいですね。数あるカフェの中でも上島珈琲店なのは……もう、外資への反発ですね(笑)。同じ面積で外資のカフェがあるよりも、上島珈琲店があるほうがなんか和みます。
――空港だとお土産のほかにスーツケースや旅行グッズを売っているお店もありますが、そういうお店についてはいかがですか?
あのスーツケースをズラっと売っている感じも、僕は割と好きなんですよ。”旅感”を高めてくれるんです。そういう旅っぽさを高めてくれるようなものは、ほしいですね。無理かもしれないですけど、観覧車とか。まぁ、今でも展望デッキはあるんですけど(笑)
――(笑)。では、いろいろ検討してきたテナントなどを白地図に書き込んでいただいて、読者プレゼントにしたいと思います。
これをあげちゃうの? 大丈夫? いらなくない?(笑)
――バッチリです!ありがとうございます! 本日は”旅”と”スマホ”についていろいろとお話してきましたが、20年後のふかわさんはどんなふうに旅をしていらっしゃると思いますか?
そうですね……、以前もラジオで「利便性を追求すると、最終的には手ぶらが一番」ってことに気付く、みたいなことを言っていた気がします。それは、今でもきっとそうだと思っていますね。何も持たない状況が結局一番楽で心地いいんじゃないかって。でも、それは別にスマホがこの世からなくなってしまうとかそういうことじゃなくて、持ち歩かない方が一番人間らしくいられるんじゃないか、って感じるということで。20年後は分からないけど、そういう気持ちは変わらない気がするな。
――そういうスタイルを”旅”という時間の中に取り入れてみると、使っていなかった自分の感性に気付くことができるかもしれないですね。本日はありがとうございました!
ふかわりょうさんの新刊「スマホを置いて旅したら」は大和書房より好評発売中です。
また、こちらの記事でふかわりょうさんに実際に書き込んでいただいた「理想の空港」と著書をセットで1名様にプレゼントいたします!
▲実際にふかわりょうさんに書き込んでいただいたもの
著書「スマホを置いて旅したら」出版記念インタビュー
— ローチケ旅行 (@l_tike_travel) April 20, 2023
手書き頂いた”理想の空港ターミナル中部国際空港編”と著書「スマホを置いて旅したら」を1名様にプレゼント!
応募期間は4月20日~5月12日まで。
応募方法
①@l_tike_travelをフォロー
②この投稿をRT
詳細はこちらhttps://t.co/GUkPQVb9qo pic.twitter.com/goj3o2wAxB
編集:ローチケ旅行編集部
執筆:宮崎新之
撮影:十河栄三郎